長島アンサブル 5th time
黄金のみち、銀のさざなみ

2023年11月、5回目となる長島アンサンブルが開催された。
タイトルは「黄金のみち、銀のさざなみ」。
初日となる11日には寺尾紗穂(シンガーソングライター、文筆家)と 山川冬樹(美術家、ホーメイ歌手)の ふたりによる共演コンサートが、続く12日には寺尾紗穂、鑓屋翔子(さざなみハウス店主)、 大石始(文筆家)によるトークセッションが行われた。

1931年の開園以来、長島愛生園ではさまざまな人々の人生が交差するとともに、機関誌「愛生」などを通じて入所者たちの日々の暮らしや思いが綴られてきた。 人々は長島の地で何を綴り、どのような思いを込めてきたのだろうか。 そして、現在に生きる私たちはその言葉にどのように向き合うことができるのだろうか。12日のトークセッションの模様をお届けしたい。 (Text:大石始)

見えないものの存在を
感じながら歌う

大石 始
(以下、大石)

まずは昨日のライブについて話を伺えればと思うんですが、寺尾さんがこちらでライブをやるのは何回目なんでしょうか。

寺尾紗穂
(以下、寺尾)

3回目かな。一番最初は愛生会館でやらせていただきました。

寺尾

昨日は…山川さん、すごかったですね(笑)。最後に「楕円の夢」という私の曲を一緒にやらせていただいたんですけども、山川さんは(トゥバ共和国の擦弦楽器である)イギルとホーミーをやってくださって。今まで他の方のイギルの演奏は聞いたことがあるんですが、誰とも似ていなくて驚きました。

大石

鑓屋さんは昨日のライブ、いかがでしたか。

鑓屋翔子
(以下、鑓屋)

島にやってきた患者さんが身体の検査のために滞在する回春寮という場所があるんですけど、山川さんは先月もそこでパフォーマンスをされたんですよ。マイクを通して自分の鼓動をドン!ドン!と鳴らすパフォーマンスをされていて、すごく印象に残ったんですね。

あのときは外で雨が降っていて、すごく静かな日だったんですけど、鼓動が鳴った瞬間、回春寮のガラスがビリビリと振動したんです。昨日のライブでもそのときのことを思い出してドキドキしました。

山川冬樹:プロフィール

大石

寺尾さんは日本各地でライブをやっていらっしゃるわけですけど、この場所・この島で歌うことに関してはいかがですか。

寺尾

愛生会館でやらせていただいたときは何となく選曲を考えてきたんですけど、実際歌い始めてみると、いろんな言葉が引っかかったんですよ。たとえば、「故郷」や「母」といった言葉を歌っていいんだろうか、歌いながら戸惑うというか、ライブ中ずっと揺れていたような感覚がありました。

あのときは最後に「ふるさと」を歌ったと思うんですけど、直前まで歌うか・歌わないか迷っていて、そのことをさざなみハウスの森山(幸治)さんに相談したんですね。そうしたら以前も歌ったことがあったらしくて、結局歌うことにしました。

滞在自体は毎回短いですけど、会を重ねることで少しずつ(長島愛生園の)中の方々のことを身近に感じられるようになってきたかなと思います。

大石

昨日のライブでは選曲も含めてこの島で生きた人たちに対する供養のような感覚も覚えました。

寺尾

そうですね。
昨日は舞台上にこの清志初男さんの絵があったということもあって、清志さんのことを思いながら歌っていました。昨日やった「富士山」も、ただの別れの歌というよりは、追悼歌のような雰囲気があるので。

前回このさざなみハウスでやらせていただいたときに、ちょっと不思議な写真が撮れたりして、そのことをきっかけにして神谷美恵子さんの『うつわの歌』という本を読んだんですね。

その本の帯に「この世のいのちだけが存在ではないのですから」っていう神谷さんの言葉が書いてあるんですけど、この言葉がすごく好きなんです。見えないけど、あらゆるところに人たちがいて、そういう存在を感じながら歌っていました。

大石

その清志初男さんのこともお聞きしたいんですが、寺尾さんが今おっしゃった「不思議な写真」のことが気になります(笑)。

寺尾

前回長島に来たときは星野さんというカメラマンの方が来てくれていて、散策しながらいろんなところで写真を撮ったんですね。

ちょっと丘みたいになっているところに行ったらバッタがたくさん飛んでいて、捕まえようとしたんです。かつてこの愛生園にも子供たちがたくさんいた時代があって、こんなふうにバッタを追いかけたりしたんだろうなとも考えながら。

そこで撮った写真にオーブという光の輪がいくつか写ってたんです。それを出雲の歌島(昌智)さんというミュージシャンの方に見てもらったら、「子供たちが写ってますね」と言われまして。そのほかにも光が不思議な感じで写った写真があったので、それも見てもらったら「マリア様みたいな、看護婦さんみたいな人が写っていて、とても喜んでます」と言われて。

そういえば神谷美恵子さんが看護婦さんみたいな服を着て写った写真があったなと思って。もしかして神谷さんだったのかな、と思って。

大石

不思議な話ですね。

寺尾

そうなんですよ。そんなことがあって、神谷さんの『うつわの歌』という本を読むようになったんです。

【つづきます】