2021.9.9一日一題『青い鳥楽団』山陽新聞掲載

長島という場所を知って一番初めに興味を持ったのは〝表現〟についてだった。

歴史館の2階で少年舎にいた子どもたちの詩を読み、驚かずにはいられなかった。こんなにも胸に響く言葉を編み出せる力の源は一体何だったのか。悲しさや怒りだけではなく、親元から切り離されて自分の知らない人を「お父さん」「お母さん」と呼びながら少年舎で暮らす子どもたちのたくましさを強烈に感じた。

愛生園で暮らした人たちの表現はいろいろな形でさざなみハウスにもたどり着き、かつての息遣いを空間に感じさせてくれる。最近、常連の入所者さんがこの夏に撮影した花火の写真を店の青い壁に並べて飾っている。その写真に夏の終わりを感じる。

園には「青い鳥楽団」というハーモニカバンドがいた。ハンセン病の後遺症で失明したり身体が不自由になったりした、いわゆる重症患者と呼ばれる人たちが集まった楽団だ。

リーダーだった全盲の近藤宏一さんは指先の感覚がなくなり、舌と唇で点字を読み取った。独自に音楽を学んで作詞作曲し、メンバーに演奏法を教えた。2009年に83歳で亡くなった近藤さんの著書には、愛生園に入ってからの苦悩や喜び、楽団を結成するまでの道のりが文才豊かに描かれていて、本当に胸が熱くなる。「俺たちの生活を俺たちの手で作っていこう」。これほど強い言葉があるだろうか。

さざなみハウスに関わる3人の音楽家がいま、青い鳥楽団の世界を、時間をかけて大切に再現してくれている。阿部海太郎さん、トウヤマタケオさん、当真伊都子さん。彼らを通して聴く楽団の音楽はとても美しく、楽しい。深い表現の世界へ誘い込まれる。

以前、入所者自治会長の中尾伸治さんが「いまの人間は弱くなったのかなあ」とつぶやいて、返す言葉が見つからなかった。そうなのだろうか。だとすれば、私は長島で人間について学び続けたいと思う。療養所の歴史がこれからの生き方を示唆してくれているような気がしている。   2021・9・9

 

 

posted : 2021.09.09
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