揚げ出しとチーズケーキ

 

お昼の時間になると、ランチをお弁当で注文してくれる常連さんもちらほら増えた。だけど一方で、テイクアウトの容器をきっちりと揃えているわけではないので、カレーのような汁物をどうやっていれるかだとか、小さな入れ物しかなくて色んなものを組み合わせるとか、容器のサイズを意識してない揚げ物とか、その時々のメニューをその場の勢いで詰め込んで渡してしまうことも多い。だから、短距離をそっと持って帰ってくれる人がテイクアウトにおける個人的な理想だ。ライトハウスのT成さんも持ち帰りをするうちの一人で、定期的に内線で予約をくれて、12時になると自転車で大きなマチのある手縫いの手提げ袋を持参してやってくる。それは初めての注文の時に私が袋の用意をしていなかったから。以来、T成さんは出たとこ勝負みたいなさざなみのテイクアウトに自身の創意工夫で乗り越えてくれるお客さんとなってくれている。

だんだんT成さんなら何とか持って帰ってくれるかなと甘えが出てきて、テイクアウトの仕様がずさんになってくるのが私の悪いところだ。いつしか汁物に対してもどうにかなるかなという気持ちになっていて、揚げ出し豆腐もお出汁をかけてそのままお弁当容器に詰めるようになった。ある予約の時、T成さんは小ぶりな段ボールを抱えてやってきた。自転車でどうやって持って帰るのか心配に思って尋ねてみると「こないだの揚げ出し豆腐な、ぷかぷか浮いとる白いのを豆腐かと思って食べたらチーズケーキだったんよ。だから段ボールだと傾かないかなと思って!」とのこと。なんてこった!笑ってあっけらかんと話すT成さんをみて心底かたじけない気持ちになった。サービスのつもりでいれてたケーキが私の愚行によって台無しになっていたとは…。私も自転車のそばまで見送りに行くと、手際よくロープで後ろの荷台に段ボールを固定して出前屋さんのように自転車で去っていく。その姿には間違いなく後光がさしていた。相手に求めることなく、自らのスタンスを変化させるおおらかさ。素晴らしきオバサマ道はT成さんから学ぼうと誓った。

posted : 2021.01.01
喫茶店の日々 長島を歩く さざ波立つ人たち