長島で育つ人たち

初期の頃、外から来るお客さんの気配など一切なくて、清志さん、もしくは他の入所者の方とマンツーマンの時間がほとんどだった。誰かと対峙する時間が長かったからこそ、人に興味を持つようになった気がするが、やっぱりそんな時は誰か来ないかなとよく願ったものだった。そんな日々の中に現れたのが、盈進学園の延先生と生徒の皆さんだった。療養所に喫茶店ができたことを自分ごとのように喜んでくれ、心の励みになったことをよく覚えている。以来、定期的に延先生からスマホのショートメッセージに生徒の人数分、ランチの予約が入るようになった。今週末は賑やかになるな、とにんまりする。
盈進学園は広島県福山市にある。県をまたぐ、というのはどこか大仕事のような気分になるけれど、この人たちは隙あらばやってくるからすごい。距離を感じさせないのが上手(?)である。しかもヒューマンライツ部の活動として20年以上長島に通い続けているという。
その日は私が彼女たちの学校にお邪魔することになっていた。なんと阿部海太郎さんが授業をするというではないか。さざなみハウスで初めて出会った海太郎さんと延先生、気づけばこんな繋がりになっているから驚きだ。福山までは自宅の最寄り駅から黄色い電車に乗れば、実は一本でつながっていたということに今更気づく。うらやましいほど贅沢な時間を私もおすそわけしていただいた。
音に向き合い続けてきたこと、音を通じて記憶を共有すること、人の記憶を音でどう表現するか、「語り得ないもの」を永遠に語っていこうとする姿勢を、海太郎さんはあらゆる方法で中学生の彼らに向けて伝えていた。大人がワクワクするような授業にどんな反応をするのかなと思っていたら、司会の中学生たちが大きな声をそろえる。「それでは、お待ちかね!海太郎さんへの質問ターイム!」と、それぞれが手を挙げても自分の番が回ってこないくらいに質問がつづき、まさしく争奪戦。なんというか、盈進のパワーに圧倒された一日で、こういうエネルギーが彼女たちを長島へと誘うんだろうなあと納得したのだった。
「彼女たち」とひとまとめにするのが惜しいほど、それぞれが魅力的で内なる世界をきっと秘めている。あふれるほどの豊かでほがらかな感性を私も忘れずにいれたらいいなと思った。
posted : 2021.12.18
喫茶店の日々 長島を歩く さざ波立つ人たち