V字回復の瞬間

喫茶店の日々
10月、RSKで「メッセージ」が放映された。夏の緊急事態宣言が明けて、世のムードが少し大らかになった頃、3日間かけて丁寧な取材をしていただいた。ありがたいことに喫茶店を中心とした内容で、偶然にもそれはいつもの常連さんたちで見事に構成されていたので、この二年間で出会えた人たちへの感謝を改めて自分の胸に感じた。
番組の中でひとりの入所者の方がインタビューに応えてくれている。写真家でもあり、宗教家でもあり、早くからのさざなみの常連さんでもある。ブラウンのハットが雰囲気によく馴染んだ、紳士でチャーミングな人。病気で神経が通っていないという手は真夏でも氷のように冷たい。芯から冷えているのだと、彼の手にふれたあの感覚は忘れることができずにいる。
今年に入って、インタビュー映像を撮らせてもらえないかと彼にお願いしにいったことがある。かつて、療養所では入園するときに園内での名前を決めていた。ハンセン病患者が身内にいた事実は、家族や親族で隠すべき秘密であったりもした。迷惑がかからないようにと、今でも外への露出を控える人は少なくない。私は今、それでも図々しく、そのようなお願いしてまわっている。彼はどうだろうともらった返事は「口がもう回らんのんじゃ。言葉が出てこん、それが情けのうてのう。」だった。そのあと続いたのは、自分の身体がいかに弱ってきているかという力説で、「今年でもうダメやなあ。」と何度もつぶやくのだった。
そんな彼が偶然にも、取材が入ってる喫茶店にやってきて背中越しにインタビューを受けた。この場所について「勇気が出る。」と口にしてくれたことが私はとても嬉しかった。
放映後、彼はあれだけ取り上げられていたことに驚いていた。知人からの反響が多く、長らく連絡が途絶えていた友人からも電話があり「生きとったんか!」と笑ったことを教えてくれた。それからの彼は、面白いくらいに元気を取り戻して、再び頻繁にさざなみハウスに訪れてくれるようになったのだ。顔をほころばせて「繁盛しとるなあ。」とまんざらでないからおかしい。悩める人が喫茶店にきてくれることを今日も心待ちにしている。
posted : 2021.12.17
喫茶店の日々 長島を歩く さざ波立つ人たち