ふたりの名前。

8時にお店をオープンさせるのが億劫になるほど朝晩が冷えてきて、夏の空気をとっくに忘れてしまった。
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ランチのピークタイムにはキッチンの熱気で汗がダラダラ、ひと段落ついた時にスタッフと2人で飲む自家製の梅サワーが栄養ドリンクのように渇いた身体へ効いた。メニューにはない夏の楽しみだったけど、11月も半ばに入ると忙しさが冷えた身体を暖める絶好のチャンスとなっている。
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季節が変わっても、変わらず来てくれる常連のN村ご夫妻が注文するのは、いつものセット。
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旦那さんの方は、ゆで卵のことを煮抜き卵と言う。自分の祖父母からよく「ニヌキ」と聞いていたので、蘇る懐かしさが嬉しくて「ニヌキとパンのモーニングね」って、わかっているのにいつもわざわざ確認してしまう。
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奥さんはチーズケーキで、二人が飲むコーヒーの好みはそれぞれ違う。話す時には、N村さんと奥さん、と呼んでいたのだが、それもなんだかな〜という気になって、少しドキドキしながら下の名前を聞いてみた。
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そしたら教えてくれたのが、F子とR三。F子さんは月の満ち欠けや暦を大事にするお家で彼女の名前は神主さんが名付けたらしい。R三さんは三男坊。
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「ええ名前じゃ」ってR三さんは大口を開けて笑って、F子さんは「2人とも親からもらった名前です」と教えてくれた。
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ごく自然で当たり前のような会話だったけど、F子さんが控えめに微笑むのをみて、生まれた時から変わらない名前がどれだけ大切なことか、あっ!と気がついた。
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「そっか…!」と素直な感想が漏れてしまう自分の無知、というか何だかよくわからない知ったつもりのような想像力の薄っぺらさを恥じながら、それを受け止めてくれる2人にはいつまでも常連さんでいてほしいなあと思った。
posted : 2020.11.18
喫茶店の日々 長島を歩く さざ波立つ人たち